あったかえっせい

店舗スタッフが体験したお客様との出会いをエッセイ形式でご紹介いたします。

『赤いメガネ』

渋谷店 宮田 はるか

 手に持っていたのは赤いメガネ。「これにレンズを入れて欲しいんですけど・・・。メガネ作るのって初めてでわからなくて・・・」。緊張しながらとても丁寧にお話してくれる姿を前に、私はとても嬉しくなり、彼女の眼に合わせたレンズを選んだ。

 数日後。仕事の帰り道に地下の食品街を通ると、視線の横をフト赤い色が横切った。振り向くと、洋菓子屋さんのブースに人が集まっている。接客をしているのはまぎれもなくこの間の彼女。

 常に笑顔を絶やさず、言葉遣いもとても丁寧で、明るいオーラに満ちていた。その姿にしばし見とれていると、向こうから見つけられてしまった。「この前はありがとうございました。この眼鏡すっごくいいです!」。弾むような言葉を耳にするだけで、彼女の手の中のお菓子がますます美味しそうに見えた。

 仕事が上手くいかずに涙ぐみ落ち込む帰り道、変わらない明るい店頭で懸命に働く彼女の姿がある。そして、彼女の笑顔の前には、私の作った眼鏡がある。そう、私はこんな風に誰かの日々の役に立ちたくて、眼鏡屋になったんだ。

 彼女とはお互いに気付いた時、手を振り合うようになった。上げた右手をゆっくりと降ろす度、私はいつも自分に問いかけた。目の前の人の大切な生活の一部を担っている。だからこそ、責任がある。だからこそ・・・楽しい!

 目を閉じると浮かぶあのメガネの鮮やかな赤は、
大切なことを思い出させてくれる。

『やけどしたサングラス』

ダイヤモンド店 米山 肇

 ある日のこと、当店ではあまりなじみのない、渋谷109あたりで見かけそうな若い女性が、いかにもその人らしい彼氏を同伴でご来店。「すいませ〜ん。ここで買ったんじゃないんですけど〜。メガネ直してもらえますか?」

 伺うと、サングラスの掛け心地がいまひとつフィットせず調節してほしいとのこと。耳にかかる部分を曲げ直して、横からの押さえをきかせてみると、「ずれない!いい!すごくいいです」と、満足そうな笑顔で言ってくれた。

 二週間ほどたった頃に、見覚えのある女性が店内にはいってきた。「あの〜この前のサングラスなんですけど〜。ちょっと大変なことになっちゃって…」。

 そう言って差し出されたサングラスを見ると、右レンズの上方、枠の一部が焼け焦げている。煙草の火が原因らしく、へこみができてその周囲にくすぶった痕が残っていた。しかしさいわいフレームはプラスチック素材で厚みがあり、ある程度修復できそだ。

 直ったサングラスを手にした彼女。「うそ、まじヤバイ!」え?やばい?「全然、ぜんぜん!」え?ぜんぜん?すると彼氏も…、「お、全然いいじゃん!」「うん、全然いい。ぜんぜんわかんない。すごい、きれい!ありがとうございます!」

 いくらですか?と聞かれたが、部品代がかかったわけでもなく。
「タダすか?すげえ。今度サングラス、絶対ここで
買いますから!」と、彼氏からの返事。
今回も、売上にはならなかったけれど。
あんなにうれしそうに喜んでくれて。
だから…
“全然、いい!”

『やさしいアンテナ』

営業推進部 岡本桂子

 ある日、イワキメガネ某店のバックヤードにて・・・。後輩の女性スタッフが数枚の“お客様カード”を手に、何ごとか思案しているようす。

 「どうしたの?」声を掛けると、「このカードどうしようかと迷っているんです」と言う。先ほどお帰りになった70代の男性のお客様とその奥様のカードだった。帰り際に、イワキの顧客であった最愛の奥様が鬼籍に入られたことを告げたのだった。

 「そういう訳なので家内の記録カードはもう処分して下さい」とおっしゃった時、彼女は胸が詰まってしまい、お悔やみも上手く言えず「はい、かしこまりました」と答えるのが精一杯だったそうだ。

 カードには、ご夫婦が一緒に当店に足を運ばれた記録も残る。そんな時間が、奥様の自筆で名前が記されているこのカードに宿っているような気がする。ご主人様はそれを大切にしたいのでは。・・・彼女の「やさしいアンテナ」はそんな想いをキャッチしたのだ。

 「あんまりしないことですけれど、こちらの奥様のカード、ご主人様のカードと一緒にしておいても良いと思いますか?」彼女のまっすぐな眼差しに、先輩である私は「OK」を出した。

 彼女の手で丁寧にパチンとホチキス留めされたカードを見て、「めおとカード!」私が言うと、彼女が笑顔になった。

 ペパーミントグリーンのご主人様のカードとオレンジ色の奥様のカード、しっかりぴったり重なっている。もうひとつ、彼女の心が、二人のカードにそっと寄り添っている。